A:炎渦の使い魔 フラガン
ユールモアのランジート将軍が使役している、グクマッツという使い魔を見たことはあるか?あれは将軍の一族が継承してきた、異国の妖術の産物らしい。術者の魔力で紡がれた魔法生物だから、基本的には、主が死ねば、塵になって消えてしまうそうだ。が、何事にも例外はあるっていうだろ?ランジート将軍の父親は、罪喰いとの戦いで死んだけれど、その際、彼の使い魔「フラカン」は、いずこかに飛び去ったという。主が罪喰いとなったゆえなのか、その理由は定かじゃないけどな。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
少し風変わりな依頼を受けた。リスキーモブの捜索・討伐についてはいつも通りではあるが、だが捜索の本命は違っていた。依頼に来た初老の男性は綺麗に白一色になった短髪をしていて、身に付けている衣服からは町人という趣ではない。
老齢の紳士は部屋に入ってくると目礼してテーブルに着いた。紳士は静かに話し始めた。
「貴方がたは魔獣使いでユールモアの猛将でもあったランジート将軍を知っていますか?私はランジート将軍の御父上であるザルバード卿が暗殺集団の頭目をされていた時代に共にしのぎを削った盟友なのですが、実は御父上ザルバード卿は生きていると考えているのです。いや、正確には「生きている」とは違うかもしれませんが何らかの形で現世にとどまっていると考えているのです。」
暗殺者集団という言葉に相方の体が強張るのを感じて、あたしは隣に座る相方の足に優しく手を置いた。
相方の緊張がほぐれるのを感じてあたしは話を進める。
「何故そう思われるんですか?」
あたしの丁寧な言葉遣いに、相方が驚いたらしくあたしの顔を結構な勢いでガバッと見た。
一体あたしを何だと思っているのか。あたしだってそこそこいい年齢になったレディである。相手に合わせてお淑やかな対応くらいは普通に出来るのである。ホント失礼しちゃう。
「ザルバード卿は息子のランジート将軍と同じように妖術を使い、同じように使い魔を使役していました。使い魔は術者の魔力を紡いで作られた魔法生物のようなものです。ですから術者が死ねば塵になり、霧散するのが普通です。」
「つまり、使い魔が生きているという事ですか?」
相方があたしを真似たような言葉遣いで言った。あたしは大人なのでそれをからかったりはしない。
「ええ。今こちらのクランでリスキーモブとして賞金がかけられているフラガンは元々ザルバード卿の使い魔です。」
「えっ?」
「ご存知ないのもいた仕方ありません。もう半世紀も前の話です。お気になさらず。ザルバード卿は暗殺者集団の頭目としてドン・ヴァウスリー様の御父上に可愛がられていました。政敵の多いヴァウスリー家はザルバード卿にとってもお得意さまでした。その後、その腕を買われたザルバート卿はユールモア軍の特殊部隊を仕切る様になりました。その頃はまだユールモアも罪喰いのターゲットして何度も襲撃を受けていましたから罪喰いと戦える実力のある優秀な人材が欲しかった。そして、彼が指揮を執る様になってからユールモアは負け知らずでした。だがある日、彼は罪喰いの奇襲にあった見方を救うため、少数精鋭で森に向かいましたが皆倒れ、孤立してしまった。その戦いで彼は敗れ、その消息が不明になりました。伝聞では彼は罪喰いにやられなくなったと聞きました。私もそう考えて生きてきました。だが、フラガンが生きているという事はザルバード卿の魂も近くにあるという事になります。」
あたしは問いかけた。
「でも魂が現世にあること=魂が無事である、とは鍵らないのでしょ?」
「それも弁えております。可能性としてはザルバード卿自身が罪喰いになっていた場合、魂は生かされている訳ですから使い魔は消えないかもしれない。肉体が滅び、抜け出てしまって、当てもなく魂が彷徨っているのだとしても同じように使い魔は存在し続けるだろう可能性はあります。どういった場合でも彼に恩がある私はかつての盟友を輪廻の輪に戻してやりたいと思っているのです」
紳士は薄く笑顔を浮かべ、席を立った。
「詳細は改めてご連絡いたします。では」
紳士は踵を返すと出口へ向かって歩き出した。
「…あれ?」
あたしはふと疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ザルバード卿としのぎを削ったって…、ランジート将軍って幾つで亡くなったの?」
紳士は微笑しながら振り返って言った。
「私も妖術使いなもので」
あたしはハッとした。
「なるほど。貴方、見た目通りの年齢ではないのね」